『頭は一つずつ配給されている』森崎東著

《映画「男はつらいよ」の礎を築いた脚本家であり、一貫して底辺に生きる人間を見つめてきた反骨の映画監督・森崎東が、一九八五年より『公評』誌上に書きためた随筆、論説集である。
進行中の作品や、頓挫(とんざ)した企画、あるいは時勢を鋭敏に取り上げて思索し、権威を批判し、やがて「何のために映画を作るか」、「生きる第一義は何か」を追求し、帰納していく。
著者に師事したひとりとしては、「おっちゃんの方舟」や「老人力」など、実現しなかった映画の記述の数々に、まず心躍らされた。諧謔(かいぎゃく)に富んだ筆致と、独特の視点、こだわりに魅せられて、一気に読んだ。
最愛の兄が第二次大戦敗戦翌日に自殺するという、苛烈(かれつ)な体験を創造の原点とし、少年期に接した大牟田の炭鉱労働、旧制高校から京大学園新聞記者にかけて培った、理想と情熱の記憶を手繰る。著者の論評は、映画のみに留(とど)まらず、政治、宗教、哲学へと連射される。日本社会特有の「いじめ」が、天皇制と通低していると指摘し、利権を生みやすい代議制を否定し、ユニークな直接民主制の必要を提案する。また、原発臨界事故に思いを巡らせては、「『万人が万人にとっての敵である』資本主義社会の中で、自由競争というかま窯に煮られて、『本能(良心)』という乳はひとたまりもなく泡立ち、蒸発した」と絶望する。しかし、別の章では、「絶望」の虚妄を論じ、「絶望しても、遠い残雪のようにある祈りは残るだろう」と希望する。
絶望までいかなくとも、失望ばかりしている、同じ映画人としては、本書を「福音の書」として座右に置きたい。
表題は、著者のデビュー作に主演した故渥美清が発した、台本にないセリフである。「てめえの頭で考えろ、人間頭一つずつ配給されてんだ」と毒づいた彼は光輝く自信に溢(v)れていた、という。》(本木克英・映画監督) 「赤旗」2004年11月7日

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